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千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)7号 判決

原告

蔦農場有限会社

右代表者代表取締役

蔦富子

右訴訟代理人弁護士

須藤公夫

被告

印旛村

右代表者村長

吉岡敏夫

右訴訟代理人弁護士

滝口稔

右指定代理人

荒木充

外二名

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し平成三年三月二八日付け印産第三〇七号をもってなした「別紙物件目録記載の土地に係る農業振興地域整備計画変更申請はこれを不承認とする。」との処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文と同旨。

(本案に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有しているところ、本件土地は、被告が農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)八条により定めた農業振興地域整備計画のうちの農用地区域内にある。

2  原告は、平成二年一一月五日付けで、被告に対し、本件土地上に原告代表者蔦富子らの住居とするための農家住宅(木造平家建、床面積134.15平方メートルの社宅)を建築することを目的として、本件土地を農用地区域から除外するいわゆる農業振興地域整備計画変更の申請をした。ところが、被告は、平成三年三月二八日付けで、右申請を不承認とし、その旨原告に通知した(以下、右処分を「本件不承認処分」といい、右通知を「本件通知」という。)。

3  そこで、原告は、平成三年五月二日付けで、被告に対し、本件不承認処分について異議申立てをしたところ、被告は、平成三年七月二二日付けで、異議の申出を棄却したので、原告は、平成三年八月二〇日付けで、千葉県知事に対し審査請求をしたが、千葉県知事は、平成四年三月二七日付けで、右審査請求を棄却した。

4  しかし、本件不承認処分は、次のとおり違法である。

(一) 被告は、本件土地が、優良な集団的農用地内にあるとの認定のもとに、これを前提とする農林水産省農政局長通達(昭和四七年五月一日、四七農政第一八四九号、最終改正昭和五六年八月二〇日、五六構改C第四六三号「農業振興地域整備計画の変更及び異議申出等の処理について」の第一・4・(1))に定める変更要件に欠けるとして本件不承認処分をした。しかし、右通達の基準は不明確であり、結果的に居住の自由を明確な基準なく侵害するものであるから、右通達は憲法二二条に反し、無効である。

仮にそうでないとしても、本件土地は、右通達にいう優良な集団的農用地としての実体を備えていない。すなわち、本件土地あたりは、土壤が脆弱であって土中へ機械が沈むため大型耕作機械が使用できないし、排水施設が悪く、年間を通じて湿田となっている。そして、この状態は今後も改善される見込みがない。

(二) 仮に、本件土地が集団的農用地内にあるとしても、原告のした本件申請は前記通達のアからオの要件をすべて充たしている。

すなわち、

(1) 農用地区域外に代替すべき土地がないものであること(除外要件ア)

原告は、千葉県佐倉市内に土地を所有しているが、そのうち佐倉市円城寺六四六番外四筆の土地は、隣接地を公園墓地とする計画が確定しており近々着工の予定であるため、人家を建築するには不適当である。また、同市八双六一四及び六一五番の土地は、右各土地及びその周辺に一〇年くらい前から大量の産業廃棄物が不法に投棄されているため、土壤及び地下水が汚染されているばかりでなく、農道や市道に通じる幅員四メートルの道路がないため、建物の建築が不可能である。

(2) 可能な限り農用地区域の周辺部の土地等変更後の農用地区域の利用上の支障が軽微である土地を除外するものであること(除外要件イ)

本件土地は、印旛村の南東端に位置し、村道に接しているから、農用地区域の中心に位置せず、また既に農業用倉庫、機械倉庫建築のための敷地とするための軽微変更の許可を受け、地目も宅地に変更されている土地である。そして、本件申請は、右土地上に農家住宅として妥当な広さである134.15平方メートルの広さの平家建ての建物を建築することを目的とするものであるから、本件申請を承認しても農用地区域の利用上何ら支障はない。

(3) 変更後の農用地区域の集団性が保たれるものであること及び変更後土地利用の混在が生じないものであること(除外要件ウ・エ)

農振法三条四号は、農用地区域内の土地に耕作業務のため必要な農業用施設を建築することを認めているが、右農業用施設には農作業のための準備休養施設が含まれる。ところで、本件申請は、本件土地内に農家住宅を建築することを目的とするものであるが、これに含まれる居住の目的は農業の現場における生産物及び生産手段の管理という目的を達するためのものに過ぎないから、農業用施設と同様のものである。従って、本件申請が認められても、農用地区域としての集団性はいささかも害されるものではなく、また、土地利用の混在は生じない。

(4) 国の直轄または補助による土地改良事業、農用地開発事業、農業構造改善事業によって土地基盤整備事業を実施中の地区内の土地及び当該事業が完了した年度の翌年から起算して八年を経過していない地区内の土地を農用地区域から除外するものでないこと(除外要件オ)

本件土地の分筆前の九〇二番の土地は、昭和五三年三月三一日土地改良法九四条の八第五項による改良事業が完了した土地である。

(三) なお、被告は、本件農業振興地域内の土地である千葉県印旛郡印旛村平賀字角崎三六八八番六の土地について、農業者でない多田忠吾の住宅を建築するための農用地区域からの除外申請を承認し、また、同区域内の土地である吉田馬見台一四九一番一の土地についても、香取利夫の農家分家住宅を建築するための除外申請を承認している。そして、右各申請を承認しながら本件申請を不承認とする理由はない。被告は、右多田及び香取の土地が農用地区域の周辺部にあるとの理由で農用地区域からの除外を承認したようであるが、本件土地も原告所有の土地を通って公道に接しているから、この点では変りがないのであって、多田及び香取の二筆の土地につき農用地区域からの除外を認め本件土地について除外を認めないのは、不公平、不合理である。

5  よって、原告は、被告に対し、本件不承認処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件通知は、抗告訴訟の対象となる行政処分ではないから、本件訴えは不適法である。すなわち、農振法、同法施行令、同法施行規則には、農用地区域内の土地を農用地区域から除外することの申請権及びこれに対する応答義務を定めた規定が存在しないし、このような申請に関する手続規定もない。しかも、農振法の関係規定をみても、解釈上、右申請権を認める手掛かりとなるような文言もない。従って、原告は、本件土地を農用地区域から除外するよう求める申請権を有しない。もっとも、被告は、農業振興整備計画の変更(農用地区域からの除外)を申請する場合の手続について、まず土地所有者が印旛村長に農業振興整備計画変更願いを提出し、印旛村長が当該農用地利用の変更について千葉県と協議した上、これに承認・不承認の結果を出し、申請者に対し通知しかつ縦覧に供するという手続を定めている。しかし、この手続は、農用地区域に編入された経緯及びその後の周辺の土地利用状況その他の経済的、社会的情勢の変動に照らして、客観的に農用地区域から除外することが相当と認められる土地について、被告の職権の発動を促すための措置として行われているものであり、被告が除外申請権を認めているからではない。従って、本件通知は、農用地利用計画の変更をしないという事実上の応答に過ぎず、右通知をしても、除外前の状態、すなわち被告が農用地利用計画に基づく農用地区域の決定をした状態が維持されるに過ぎないから、右通知によって原告の権利もしくは利益に変動が生じるような法的効果が発生することはない。

2  なお、このように解しても、農用地区域内の土地所有者等の権利救済に欠けるところはない。すなわち、右土地所有者等は、農振法一五条の一五第一項により、知事に対し、居住用の建物の建築等の開発行為を行う許可を申請することができる。そして、この申請に対し不許可処分がなされた場合には、土地所有者等は、開発行為の不許可処分の取消しを求める抗告訴訟において、農用地利用計画に基づく農用地区域の決定が違法である場合には、その違法性を主張して争うことが許されている。従って、農用地利用計画につき変更申請権を認めなくとも、土地所有者等の権利救済に欠けるところがなく、格別の不都合は生じないというべきである。

3  また、原告の場合には、原告は、本件土地が農用地区域に含まれていることを知りながらその所有権を取得した。従って、原告に農用地利用計画の変更申請権が認められないとしても、条理に反することはない。

三  請求原因に対する被告の答弁及び反論

1  請求原因1ないし3は認める。

2  請求原因4は争う。

3  本件申請を承認しなかった行為は、次のとおり正当である。

(一) 被告は、本件通知の時点において、1267.7ヘクタールの面積の区域につき農用地区域を設定し、当該農用地区域内の各土地の農業上の用途区分を設定していたのであるが、本件土地を含む農用地区域は、昭和五三年度に国営印旛沼干拓建設事業が竣工した干拓地であり、また、県営圃場整備事業による基盤整備事業が行われていたので、被告が、農振法一三条所定の手続を経て、昭和五五年一一月二八日、千葉県知事の認可を受け、農用地区域に編入した地域であり、同法一二条により昭和五五年一二月一日この旨を公告し縦覧に供した。そして、右区域は、平坦な水田地帯であって、農道、用排水路が整備された、印旛村における基幹的な優良農用地区域である。

(二) 本件土地は、右農用地区域の略々中心地点に存在する。従って、本件土地に居住用の住宅を建築するため、これを農用地区域から除外することになれば、農用地区域内の中心部に農用地に属さない土地が出現し、水田地帯としての農用地の集団性が阻害され、土地利用の混在が生じることになるので、被告の策定した農業振興に関する施策に重大な支障が生じることになる。

(三) 住宅用地として他に代替地がないという理由で集団的農用地の略々中心部に存する本件土地を農用地区域から除外することになれば、公平の見地から、農用地区域内の他の土地所有者にも同様にこれを認めざるを得ない事態となり、集団的農用地性が著しく阻害されるから、農業振興整備計画に基づく農業振興施策の計画的な実施及びその効果の維持保全並びに農業構造の改善の推進をはかることが不可能になる。

(四) もっとも、本件土地の用途区分は「農業用施設」の用地となっているから、本件土地につき、農業用施設に該当する限りで建物を建築することはできる。しかし、本件土地は、従前は農地でその用途区分が農用地であったところ、当時の所有者大竹好一から、平成元年一一月二二日付けで、農業用倉庫用地とするため農振法施行令五条一項四号による軽微変更願いがあったので、被告が、所定の手続を経て、用途区分を農業用施設用地に変更し、従って、地目も宅地に変更されたのである。そして、居住の目的に供する住宅は農業用施設に該当しないから、既に農用地でないという理由によって、住宅の建築までも許容することはできない。もしこれを許容することになれば、一体的な農用地としての集団性を著しく阻害することになるのであって、農用地区域としての土地利用上の支障が軽微であるということはできない。

(五) 原告主張の多田忠吾の平賀字角崎三六八八番六の土地は、本件土地と異なり、国営印旛沼干拓建設事業により埋め立てられた干拓地ではないし、また、農用地区域に決定された後において、当該土地の前面に被告が一級村道である幅員一二メートルの山田平線を新設したことにより、周辺の土地利用状況が著しく変更され、しかも、その位置は農用地区域の周辺部にあるから、農用地区域から除外しても、農用地の集団性を阻害し、土地利用の混在を生ずるということもなく、変更後の農用地区域の利用上の支障は軽微である。また、香取利夫の吉田馬見台一四九一番一の土地は、土地改良法による圃場整備事業が施行されたことのない丘陵地帯の畑であって、農用地区域に決定された理由は畑地潅漑事業をすることにあったところ、右計画が中止されたという客観的な状況の変化があったし、その位置は県道八千代宗像線に面し、かつ、農用地区域の周辺部にある土地である。すなわち、右土地は、本件土地のように県営圃場整備事業の施行された農用地区域の略々中央部にある土地とは、周辺の環境が全く異なるのであり、これを除外したとしても、農用地区域の利用上の支障がないことが認められる土地である。従って、被告が、右二筆の土地につき農用地区域からの除外を認め、他方、原告の本件土地につき除外を認めなかったとしても、不公平、不合理であるということはできない。

(六) なお、農用地区域の指定は、農業振興の基盤となるべき農業用地を確保し、農業基盤整備の効果を維持保全し、農業構造の改善の推進を図るためのものであり、公共の福祉に沿う合理的な制限である。このように農業振興地域における農業上の土地利用の計画化を目的とする農用地利用計画が決定している地域について、これを除外する要件として、集団的農用地としての利用に支障が生じ、土地利用の混在が生じることになる場合にはこれを認めることができないとした原告主張の通達は、公共の福祉に沿う合理的な制限を定めるものであって、憲法二二条に違反するものではない。

四  本案前の主張に対する原告の反論

1  農用地区域内の土地所有者等は、当該土地を指定された用途以外に使用する行為が制限されるのであるから、この制限の解除を求める権利は留保されるべきであり、条理上、本件申請権が認められるべきである。なお、被告の主張するとおりの農業振興整備計画の変更申請手続からすると、右変更手続は当該土地の所有者等の土地利用目的の変更意思に基づいて運用されていることが明らかであって、土地所有者等に対し除外申請をする権利を条理上認めたうえでこれを運用していることに他ならない。

2  そして、農振法一三条一項により、市町村は、経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは、遅滞なく農業振興地域整備計画を変更する義務がある。従って、被告は、本件申請が右条項に該当するときは右変更をする義務があるのであり、これを不承認とした本件通知は申請の却下または不許可の処分に相当する。

3  農振法一五条の一五は、当該土地が農用地区域内にあることを前提として、その枠内で開発行為を許可するかどうかの問題を処理するものであるから、農用地区域から除外することの申請権を認めるべきか否かという問題とは次元を異にするのであり、右規定があるからといって除外申請権を認める必要がないことにはならない。すなわち、原告が千葉県知事に対し居住用建物の建築のため開発行為の許可申請をしても、本件土地が農用地区域内にある以上その理由だけにより許可申請が却下されることが明らかである。仮に、右の理由だけでは却下されないとしても、右許可申請書は、その申請にかかる土地を管轄する市町村長を経由して都道府県知事に提出し、市町村長はその申請書に意見を付して都道府県知事に進達しなければならないとされているから(農振法施行規則三四条一項、三項)、被告は開発行為の許否について本件不承認処分と同じ意見を付し、従って千葉県知事も右意見に則して同一の判断をすることは明らかである。そして、いずれにしても、千葉県知事は、農用地区域内にある土地であることを前提として開発行為の許否を判断するだけであり、本件土地を農用地区域から除外することを相当とするかどうかの判断を行わない(農用地利用計画は被告が定めるものであるから、千葉県知事には右判断権限がない。)から、開発不許可処分に対する抗告訴訟においては、除外しないことが違法であるか否かを審理の対象とすることはできない(除外しないことが違法であっても、その違法は千葉県知事の不許可処分に承継されない。)。従って、本件変更申請の不承認に独自の処分性を認めてこれを抗告訴訟の対象としない限り、原告は救済を求める法的手段がないことになる。

第三  証拠

本件記録中の証拠関係目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1ないし3は、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第六号証、乙第四ないし第八号証、証人蔦機及び同斉藤亮賢の各証言によれば、次の事実を認定することができる。

本件土地を含む一団の土地は、昭和五三年度に竣工した国営印旛沼干拓建設事業及び県営圃場整備事業による基盤整備事業が行われた土地である。そして、千葉県知事は、昭和四八年二月一六日付けで、被告の区域内にある四四七八ヘクタールの土地を農振法六条の農業振興地域に指定し、被告は、これについて同法八条による農業振興整備計画を定めていたが、右の干拓の竣工等により、本件土地を含む前記一団の土地を農用地に編入するため同法一三条による農業振興整備計画変更がなされたのであり、右変更については、昭和五五年一一月二八日千葉県知事の認可があり、同年一二月一日変更計画書の公告、縦覧手続がなされて決定されていたものである。そして、本件土地はその当時は大竹京一の所有する分筆前の大字平賀干拓九〇二番の田三〇〇五平方メートルの一部であり、農用地利用計画上の用途区分は農用地であった。ところで、原告は、もとほかの場所で事業をしていたところ、大竹が所有していた本件土地を含む広い農地を買い受けてここで農業を経営することとなったが、その際本件土地部分は、農業用倉庫建築の敷地とするため、予め平成元年中に大竹から農振法一三条三項、同法施行令五条一項四号によるいわゆる軽微変更願いをしてもらい、被告がこれを容れて用途区分を農業用施設用地に変更したので、平成二年四月二〇日に本件土地部分が分筆されたうえ、原告が農地法五条による許可を得てこれを買い受け、その後地目も宅地に変更されたものである。このような経緯で、本件土地は、農用地区域内にあるが、地目は宅地で、現に原告所有の建物が建築されている。

二  ところで、前記のように請求原因1ないし3は当事者間に争いがないところ、原告は、本件通知は抗告訴訟の対象としての行政処分性を有していると主張している。しかし、前記のように、本件土地は既に適法に農用地利用計画上の農用地に含まれていたものであるから、右農用地利用計画が変更されないとしても、これにより新たな法律関係が生じるものではなく、かえって、現在の法律関係が変更されないまま維持されることになるのにほかならない。従って、本件申請を承認しない旨の本件通知によっては、原告が本件土地について有する権利義務ないし法的地位は何も影響を受けないのであるから、本件通知のこのような性質に照すと、これに行政処分性を肯定することはできない。

三  そこで、原告は、農用地区域内の土地所有者は、本件申請のような農用地区域からの除外申請権を有するのであり、本件通知は右申請を拒絶する処分であるから、行政処分性があると主張している。しかし、農振法及びその関連法令中には、右主張のような申請権あるいはこれに対する応答義務を定めている規定はなく、かえって、農業振興地域整備計画の変更については、同法一三条一項で、「都道府県又は市町村は、農業振興地域整備基本方針の変更若しくは農業振興地域の区域の変更により又は経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは、政令で定めるところにより、遅滞なく、農業振興地域整備計画を変更しなければならない。……」と定め、かつ同条二項で、都道府県知事が市町村に対し変更するための必要な措置を取るべきことを指示することができるものとされているに過ぎないのであって、そのほかに土地所有者等の申請及びこれに対する応答というような解釈上申請権を認める手掛かりとなるような規定は存在しない。従って、農振法は、右整備計画の変更は同条所定の場合に職権によりなされるべきものとしていると解するのが相当である。原告は、農業振興地域整備計画が定められたときに土地所有者等が負担する土地利用制限を挙げて、土地所有者等には条理上の申請権が認められるべきであると主張している。しかし、右主張の不利益は、必ずしも除外申請権を認めることにより調整するようにされていなければならないものではなく、土地利用制限を及ぼす処分の性質、目的、方法、効果等に照して、前記のように変更権者の変更義務を定めて職権による適正な調整をはかる方法を取ることもあり得ることである。なお、原告は、被告も主張している整備計画の変更の実情は、条理上の変更申請権があることを前提とするものであると主張している。しかし、被告がそのような趣旨で被告主張の手続を定めているものでないことは証人斉藤亮賢の証言及び弁論の全趣旨により明らかであり、右手続は、職権による変更を促すための手続として定められているものと認めることができる。

四  なお、原告は、右のように解する場合には、土地所有者等の救済がはかられないという趣旨の主張をしている。しかし、前記のように、当該市町村等は、客観的に整備計画の変更の必要がある場合にはこれを変更をする義務があるのであり、しかも土地所有者からの申し出があって具体的に土地所有者等の側の状況を知り得たのに右義務に違反したというような場合には、少なくとも損害賠償の問題が生じ得るのであるから、救済方法がないわけではない。

五 以上の次第で、本件通知は、職権による変更をしないという結果を事実上通知するものであり、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらないというべきであるから、本件訴えは不適法である。よって、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤英継 裁判官吉田徹 裁判官片岡武)

別紙物件目録

所在 千葉県印旛郡印旛村平賀干拓

地番 九〇二番二

地目 宅地

地積 999.80平方メートル

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